も与次郎殺しの徒党ですから、迂濶にそれを口走れば自分の身が危いので、ただ嚇かすばかりで思い切ったことも出来ない。それを知って、善昌もいい加減にあしらっているので、お国はますます焦れ込んで、何がなしに善昌を困らせてやろうと思って、祈祷の中日《なかび》の前夜に押し掛けて行って、大事の弁天様を無理無体にかつぎ出してしまったのです。これには善昌もまったく困って、信者にはいい加減の出たらめを云って、誤魔化しておいて、お国の方へいろいろに泣きを入れると、お国もようよう納得して、きっと覚光と手を切るならば戻してやると云って、十五日の夜ふけにかの木像を返しに来たんです。
 それから先のことは、なにぶん一方のお国が死んでいるので、善昌の片口だけではよく判りませんが、ともかくも二人が酒を飲むことになって、お国が油断して酔ってしまったところを、善昌が不意に絞め殺したらしいのです。本人は一時の出来心だと云っていましたが、どうも前から巧んだことらしい。善昌はどうしても覚光のことが思い切れない、さりとて打っちゃって置けば何を云い出すか判らないという懸念があるので、とうとうこんなことになってしまったんです。お国の死
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