案の通りに信者はますます殖えてくる。万事がとんとん拍子に行って、弁天堂を立派に再建《さいこん》するほどの景気になったんですが、与次郎の代りにお国というものが出来て、これが時々無心に来る。しかしこれは女のことでもあり、自分も与次郎毒殺の一味徒党であるから、そんなに暴っぽいことは云わない。それで二人は先ず仲よく附き合っていたんですが、さらに一つの捫著《もんちゃく》が出来《しゅったい》したんです」
 ここまで話して来て、老人は息つぎの茶をひと口飲んだ。普在寺の覚光という若い住職を中心にして、尼と女髪結とのあいだに色情問題の葛藤が起ったらしいことを、私はひそかに想像していると、老人の説明も果たしてその通りであった。
「お国は勿論ですが、善昌も行儀のよくない奴で、うわべは殊勝《しゅしょう》らしく見せかけて、かげへ廻っては茶碗酒をあおるという始末。仲のいいお国は飲み友達で、夜が更けてからお国が酒や肴をこっそりと運び込んで、六畳の小座敷で飲んでいる。そればかりでなく、ふたりは花を引く。これは三人でないとどうも面白くないので、お国が善昌を誘い出して時々かの普在寺へ遊びにゆく。この寺の覚光という青坊主が
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