作り話なら知らぬこと、実際には滅多《めった》にありそうにもないように思われた。
「それにしても、姉さんはなぜ止められたんだ。云い取り方が拙《まず》かったんだね」
「そうでしょう。止められると聞いたら、姉さんは蒼い顔をして黙っていました」
「姉さんは一体どんなことを調べられた。おめえも一緒に行ったんだから、知っているだろう」
 この問いに対して、お浪は捗々《はかばか》しい返事をしなかった。彼女はお仙が出してくれた団扇を弄《いじ》くりながら、黙って俯向いていた。
「おい、何もかも正直に云ってくれねえじゃあいけねえ。姉さんが助かるのも助からねえのも、おめえの口一つにあることだ、なんでもみんな隠さずに云って貰いてえ。姉さんはこの頃なにか親父《ちゃん》と折り合いの悪いことでもあったんじゃあねえか」
「ええ。この頃は時々に喧嘩をすることがあるんです」と、お浪はよんどころなしに白状した。
「情夫《れこ》の一件かえ」
「いいえ、そうじゃないんです」
「だって、姉さんには米沢町《よねざわちょう》の古着屋の二番息子が付いているんだろう」
「それはそうですけれど、喧嘩の基《もと》はそれじゃないんです。家《う
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