は仔細ないと認められて一と先ず釈《ゆる》されたが、お照は申し口に少し胡乱《うろん》の廉《かど》があるというので、これも番屋に止められた。これだけのことが決まったのは、その日もやがて午に近い頃で、月番の行事《ぎょうじ》や近所の人達がお照の家に寄り集まっていろいろに評定を凝《こ》らしたが、差し当りはどうするという分別も付かなかった。この上は然るべき親分の力を藉《か》りるよりほかはあるまいというので、お照もお浪もかねて半七を識っているのを幸いに、お浪は着のみ着のままで神田まで駈け付けたのであった。
「そりゃあちっとも知らなかった。十手に対しても申し訳がねえ」と、半七はすこし驚かされた。「なにしろ変なものが飛び込んだものだね。子供のような真っ黒なものかえ」
「お滝はそう云っているんです」と、お浪も腑に落ちないような顔をしていた。
「猿じゃありませんかね」と、お仙がそばから口を出した。
「やかましい。御用のことに口を出すな」
 叱り付けて、半七はしばらく考えた。猿芝居の猿が火の見の半鐘を撞《つ》いて世間をさわがした実例は、彼の記憶にまだ新しく残っている。しかし猿が刃物を持って人を殺しに来るとは、
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