みちわる》の上に着物の裳《すそ》を引き摺って、跣足《はだし》でびちょびちょ[#「びちょびちょ」に傍点]歩いているので、あとから行くお武家さんが声をかけて……お武家さんは少し酔っていらっしゃるようでした……おい、おい、小僧。なぜそんなだらしのない装《なり》をしているんだ。着物の裳をぐい[#「ぐい」に傍点]とまくって、威勢よく歩けと、うしろから声をかけましたが、小僧には聞えなかったのか、やはり黙ってびちょびちょ[#「びちょびちょ」に傍点]歩いているので、お武家はちっと焦《じ》れったくなったと見えまして、三足ばかりつかつかと寄って、おい小僧、こうして歩くんだと云いながら、着物の裳をまくってやりますと……。その小僧のお尻の両方に銀のような二つの眼玉がぴかりと……。わたくしはぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として立ちすくみますと、お武家はすぐにその小僧の襟首を引っ掴んで堤下《どてした》へほうり出してしまいました。そうして、ははあ、河童だと笑いながらすたすた[#「すたすた」に傍点]と行っておしまいなさいました。わたくしは急に怖くなって、急いで家へ逃げて帰ってまいりました」
 半七は幸次郎と眼をみあわせ
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