次郎もまじめになった。
半七はその主人をちょいと呼んでくれと云った。呼ばれて出て来たのは四十五六の男で、閾越《しきいご》しで縁側に手をついた。
「御用でございますか」
「いや、ほかじゃあねえが、おまえさんはたった今、堤で何か変なものを見たそうだね。なんですえ」
「なんでございましょうか。わたくしもぞっ[#「ぞっ」に傍点]としました。相手がお武家ですから好うござんしたが、わたくし共のような臆病な者でしたら、すぐに眼を眩《まわ》してしまったかも知れません」
「河童だというが、そうですかえ」と、半七はまた訊いた。
「お武家は河童だろうと仰しゃいました。まあ、こうでございます。わたくしが業平《なりひら》の方までまいりまして、その帰りに水戸様前からもう少しこっちへまいりますと、堤の上は薄暗くなって居りました。わたくしの少し先を一人のお武家さんが歩いておいででございまして、その又すこし先に、十四五ぐらいかと思うような小僧が菅笠をかぶって歩いて居りました」
「その小僧は着物をきていましたかえ」
「暗いのでよく判りませんでしたが、黒っぽいような単衣《ひとえ》を着ていたようです。それが雨あがりの路悪《
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