、まあ拾いあげて来ましたようなわけで……。いえ、わたくしは能《よ》くは存じませんが、なんでもそんな話でございます」
「親父もないんだね」
「へえ、親父は長吉が生まれると間もなく死にましたそうで」
「変死かえ」と、半七はすぐに訊いた。
「よく御存じで……。高い声では申されませんが、なんでも悪いことをしてお仕置になりましたそうで……」
「ふむう、そうか。そこで此の頃、河童のところへ誰かたずねて来た者はねえか」
 六助は少し考えていたが、やがて思い出したようにうなずいた。
「あります、あります。廻国《かいこく》の六部のような男が……」

     三

 半七の商売を知っている六助は、訊かれるに従って総《すべ》てのことをしゃべった。六部は四十近い、痩せて背の高い、眼つきの少し恐ろしい男で、長吉の叔父だという話であった。顔立ちの幾らか肖《に》ているのを見ると、それは嘘ではないらしいと六助は云った。その六部がきのう普通の浴衣《ゆかた》を着て、楽屋へふらりとたずねて来て、鰻を食わしてやるからと云って長吉をどこへか連れ出した。
「その六部は何処にいるのか知らねえか」
「なんでも下谷の方にいるというこ
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