っているので、裏木戸の方へ廻ってゆくと、楽屋の者もみんな帰ってしまって、楽屋番の爺さんが一人で後片付けをしているところであった。
「おい、六助さん。お前はこの頃ここへ来ているのか」
「おや、親分さんですか。どうも御無沙汰をいたしました」と、楽屋番の六助はあわてて挨拶した。
「お化けの方はなぜ止したんだ」
「へえ、どうもあの楽屋は風儀が悪うござんして、御法度《ごはっと》の慰み事が流行《はや》るもんですから……」
「爺さんもあんまり嫌いな方じゃあるめえ。時に、家《うち》の幸次郎は見えなかったかね」
「幸さんはお見えになりました。いや、それで楽屋の者も心配して居りますよ」
「河童を連れて行ったのか」
「へえ、すぐに帰すと仰しゃいましたけれど……。河童がなかなか素直に行きませんのを、無理にだまして連れておいでになりました」
「河童は幾つで、なんというんだえ」
「本名は長吉と申しまして、十五でございます」
「どこから拾って来たんだ。親はねえのか」
「なんでもこの一座が四、五年前に信州の善光寺へ乗り込んだ時に連れて来ましたので、お察しの通り両親はございません。おふくろに死なれて路頭に迷っているのを
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