んで、半七はその後なんにも変ったことはないかと訊くと、別に変ったこともないが、もう少し前に古着屋の息子が来て、お照が番屋へ止められた話を聞いて、真っ蒼になって帰ったとお浪は話した。
「どうもその古着屋のせがれが面白くないじゃありませんか。かまわずに引き挙げてしまいましょうか」と、幸次郎はささやいた。
「まあ、待て。おれも一旦はそう思ったが、まあ、それは二の次だ。もう少しほかに穿索《さぐ》って見る所がありそうだから、あんまりどたばたして方々へ塵埃《ほこり》を立てねえ方がいい」
半七は内へはいった。女中のお滝はどうしたと訊くと、けさから番屋へ止められたままで、まだ下げられないとの事であった。お照も無論帰って来なかった。新兵衛の死体はもう検視が済んで、茶の間の六畳に横たえてあった。お照の下げられるのが遅いようならば、この時節柄いつまでも仏を打っちゃっては置かれないので、近くの者が寄りあつまって何とか葬式《とむらい》を済ませなければなるまいと云っていた。半七も一応死人の傷口をあらためると、それは剃刀のような刃物で喉をえぐったらしかった。
それから水口《みずぐち》の方へまわって、怪しい物のは
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