いあげてみましょう」
「節季《せっき》師走《しわす》に気の毒だな。あんまりいい御歳暮でも無さそうだが、鮭《しゃけ》の頭でも拾う気でやってくれ」
「かしこまりました」
 半七は受け合って八丁堀を出たが、どこから手をつけていいかちょっと見当が決まらなかった。大江戸の歳の暮に万歳や才蔵を探してあるくのは、その相手のあまり多いのに堪えなかった。なんとかして手っ取り早く探し出す工夫《くふう》はあるまいかと考えながら、師走の忙がしい往来を、本郷の方角へぶらぶらあるいて来ると、橋の袂で二十四五の男に出逢った。
「やあ、親分。お早うございます」
 かれは亀吉という手先であった。もとは豆腐屋の伜で、道楽の果てから半七のところへ転げ込んで来たので、仲間では豆腐屋亀と呼ばれていた。
「おい、豆腐屋。いいところで面《つら》を見た。おめえにすこし助《す》けて貰いてえことがあるんだが……。おめえは鎌倉河岸の行き倒れを知っているか」
「知っています。今おまえさんの家《うち》へ行って、姐さんから詳しい話を聴きました。その行き倒れの抱えていた因果者というのが変じゃありませんか」
「それを少し洗って見てえんだ。才蔵が因果
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