、それをむやみに隠すというのが判らねえ。ここでいつまでも云い合っていても論は干《ひ》ねえから、今はおとなしく帰してやって、あいつの家の近所へ行ってそっと訊いて見る方がいい。御用仕舞いでおれもきょうは暇だから、午飯《ひるめし》でも食ってから一緒にぶらぶら出かけて見よう」
「おまえさんが一緒に来てくんなさりゃあ大丈夫です。あの野郎、おれに恥をかかしゃあがったから、邪が非でも証拠をあげて、ぎゅう[#「ぎゅう」に傍点]という目に逢わしてやらにゃあならねえ」と、亀吉は激しい権幕《けんまく》で時刻の来るのを待っていた。
 午飯を食って、二人がこれから出掛けようとするところへ、善八がぼんやりしてやって来た。
「どうも面白い見付け物はありません。御存知の通り、麹町の三河屋は屋敷万歳の定宿《じょうやど》で、毎年五、六人はきっと巣を作っていますから、念のために其処《そこ》へも行ってみると、案の定《じょう》そこにもう五人ばかり来ていました。そのなかで市丸太夫という男の才蔵がまだ揃わないので、太夫は心配して朝から探しに出たそうです」
 以前は日本橋の四日市に才蔵市《さいぞういち》というものが開かれて、三河から
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