るばかりで、二代目三代目と続いて来た。ところが、今度の主人夫婦になってから子供が出来ねえ。主人はもう三十を越したもんだから、早く貰い子でもせざあなるめえというので、八王子にいる遠縁のものからお安という娘を貰って、まあ可愛がって育てていたんだ。すると、そのお安が十歳《とお》になった時に、今まで子種がねえと諦めていたおかみさんの腹が大きくなって、女の子が生まれた。それがお清という娘で、貰《もら》い娘《こ》のお安と姉妹《きょうだい》のように育てていたが、そうなると人情で生みの子が可愛い、貰い娘が邪魔になる。といって、世間の手前もあり、貰い娘の親たちへの義理もあり、かたがたどうすることも出来ないので、ゆくゆくはお清に家督を嗣《つ》がせ、貰い娘の方には婿を取って分家させるというようなことを云っていたんだが、そうなると今度は又金が惜しい。分家させるには相当の金が要《い》る。こんなことから貰い娘をだんだん邪魔にし始めて……。といっても、世間の眼に立つようなことはしない。うわべは生みの娘と同じように育てているうちに、二番目の娘がまた生まれた。それが今のお雪さんだ。そうして実子が二人まで出来てみると、貰い娘の方はいよいよ邪魔になるだろうじゃねえか」
「ほんとうにねえ」と、文字春も溜息をついた。「いっそ貰い子が男だと、妻《めあ》わせるということも出来るんだけれど、みんな女じゃどうにもなりませんわね」
「それだから困る。いっそ其のわけを云って、貰い娘は八王子の里へ戻してしまったらよさそうなものだったが、そうもゆかねえ訳があると見えて、その貰い娘のお安ちゃんが十七になった時に、とうとう追い出してしまった。勿論、ただ追い出すという訳にゃゆかねえ。店へ出入りの屋根屋の職人と情交《わけ》があるというので、それを廉《かど》に追い返してしまったんだ」
「そんなことは嘘なんですか」
「どうも嘘らしい」と、兼吉は首をふった。「その職人は竹と云って、年も若し、面付《つらつ》きこそ人並だが、酒はのむ、博奕は打つ、どうにもこうにもしようのねえ野郎だ。お安ちゃんはおとなしい娘だ。よりに択《よ》ってあんな野郎とどうのこうのというわけがねえ。それでも津の国屋ではそれを云い立てにして、着のみ着のまま同様でお安ちゃんを里へ追い返してしまったんだ。世間にこそ知れねえが、それまでにも内輪《うちわ》では貰い娘を何か邪慳《じゃ
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