ち》へ帰ってもしようがねえ。ともかくも品川へ行って見よう」
 こう思い直して、かれは更に爪先を南に向けると、この頃の空の癖で、時雨《しぐれ》を運び出しそうな薄暗い雲が彼の頭の上にひろがって来た。

     二

 半七は品川の丸屋へ行って、主人にも逢った。お八重にも逢った。主人はどんな飛ばっちりを食うのかとおびえているらしかったが、取り分けてお八重は真っ蒼《さお》になっていた。なにぶんにも鳥のことであるから、別に詮議のしようもなかったが、それでも一応はお八重の座敷へ通って、鷹の飛んで行った方角などを聞き定めて帰った。
 丸屋の暖簾《のれん》をくぐり出て、半七はまた考えた。鳥の飛んで行ったのは目黒の方角らしい。現に金之助らも目黒へ鷹馴らしに出かけたのである。して見ると、鷹はそこらに降りたかも知れない。なにしろ念のために一応その方角を調べてみようと思い立って、彼は更に目黒の方に足を向けると、空の色はいよいよ悪くなって来た。
「降られるかな」
 半七は空をみながら急いで行った。これがほかの事件ならば、それぞれに筋道を立てて、捜索の歩をすすめるのであるが、事件が事件であるだけに、半七もいわゆ
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