罪犯人である。生き物と聞いて、彼はすぐに鶴殺しを思いうかべたのであるが、相手はほほえみながら頭《かぶり》をふっていた。
「鶉《うずら》ですかえ」と、半七はまた訊いた。
 この時代には鶉もいろいろの問題を起し易い生き物であった。善兵衛はやはり首をふって、焦《じ》らすように半七の顔を見た。
「判らねえか」
「わかりませんね」
「はは、貴様にも似合わねえ。生き物は鷹《たか》だ。お鷹だよ」
「へえ、お鷹でございますか」と、半七はうなずいた。「そのお鷹が逃げたんですか」
「むむ、逃げた。それで、御鷹匠は蒼くなっているのだ。けさ其の叔父というのが駆け込んで来て、おれにいろいろ泣き付いて行ったが、ほかの事とも違うから、打っちゃっては置かれねえ。その当人も可哀そうだ。早くなんとかしてやりたいと思うのだが……」
 お鷹といえば将軍の飼い鳥である。それを逃がした鷹匠は命にかかわる椿事《ちんじ》で、かれは切腹でもしなければならない。本人は勿論、その親類どもがうろたえて騒ぐのも無理はなかった。
「そこで、そのお鷹はどこでどうして逃がしたのですかえ」と、半七は訊《き》いた。
「それが重々悪い。遊所場《ゆうしょば
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