左衛門さんに金之助さん、どちらも無事に勤めていますよ。おまえさんは御存じかね」
「その金之助さんというお方に一度お目にかかったことがありました。まだ若い、おとなしいお方で……」と、半七はいい加減に答えた。
「はあ、おとなしい人ですよ」と、老人はうなずいた。「組中でも評判がいいので、ゆくゆくはお役付きになるかも知れません」
 その金之助がまかり間違えば切腹の大事件を仕でかしていることを、鳥さしの老人は夢にも知らないらしかった。それからだんだん話して見ると、この老人は光井金之助という若い鷹匠に対してよほどの好意をもっているらしく、しきりに彼の出世を祈るような口ぶりであった。由来、鷹匠と餌取りとは密接の関係をもっている職務でありながら、その折り合いがどうもよくないもので、餌取りに褒《ほ》められる鷹匠はあまり多くない。その餌取りの老人がしきりに金之助を褒める以上、双方のあいだに特別の親しみがあるらしく察せられたので、半七はむしろこの老人を語らって自分の味方に引き入れようかとも考え付いた。
「おまえさんはけさ早くに千駄木をお出かけになりましたかえ」
「六ツ半頃に出ました」と、鳥さしの老人は答えた
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