ください」
「お差し支えございますまいか」
「ちっとも構いません。いったいどんな御用です。なにか御商売上のことですか」と、半七は催促するように訊《き》いた。
いつの時代でも、質物《しちもつ》渡世《とせい》は種々の犯罪事件とのがれぬ関係をもっているので、半七は今この番頭の仔細ありげな顔色を見て、それが何かの事件に絡《から》んでいるのではないかと直覚した。しかし利兵衛はまだ躊躇しているようで、すぐには口を切らなかった。
「番頭さん。ひどくむずかしいお話らしゅうござんすね」と、半七は冗談らしく笑った。「おまえさん、なにか粋事《いきごと》ですかえ。それだと少し辻番が違うが、まあお話しなさい。なんでも聴きますから」
「どういたしまして、御冗談を……」と、利兵衛は頭をおさえながら苦《にが》笑いをした。「そういう派手なお話だと宜しいのでございますが、御承知のとおり野暮な人間でございまして……。いえ、実は親分さん。ほかのことではございませんが、少々お知恵を拝借したいと存じまして……。お忙がしいところを甚だ御迷惑とも存じますので、手前もいろいろ考えたのでございますが……」
前置きばかりがとかく長いの
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