ょう。だが、番頭さん。隠居所の方へは誰か気の利《き》いた者をもう一人やっておく方がようござんすね」
「そうでございましょうか」
「その方が無事でしょうよ」
「はい」と、利兵衛はなんだか呑み込めないような顔をしてうなずいた。「では、なにぶん宜しくねがいます」
「つまりお此さんが確かに小僧を殺したか殺さないかが判ればいいんでしょう。それさえ判れば水かけ論じゃあねえ、こっちが立派に云い開きが出来るんですから、金のことなぞはどうとも話が付くでしょう」
「さようでございます。やっぱり御相談をねがいに出てよろしゅうございました。では、くれぐれもお願い申します」
律儀《りちぎ》一方の利兵衛はくり返して頼んで帰った。こうなると、三社祭りなどは二の次にして、半七はまず山城屋の問題を研究しなければならなかった。徳次郎という小僧は果たして山城屋の娘に殺されたのか。あるいは誰かその兄貴の尻押しをして、山城屋に対して根もない云いがかりをしたのか。半七は午飯を食いながらいろいろに考えた。
「山城屋さんに面倒なことでも出来たんですか」と、女房のお仙は膳を引きながら訊いた。
「むむ。だが、大してむずかしいこともある
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