死骸を抱き起して身体じゅうをあらためて見た。
「すっかり拝見しました」と、半七は死骸を元のように寝かしながら云った。それから起って縁側へ出て、手水鉢《ちょうずばち》で両手を浄《きよ》めて来て、しばらく黙って考えていた。
「判りましたか」と、軍右衛門は待ち兼ねて催促した。
「いや、すぐにはどうも……。そこで、心得のために伺って置きたいのでございますが、ゆうべから今朝にかけて、別にお心当りはなんにもございませんでしたか」
 無論に心当りはないと軍右衛門は躊躇せずに答えた。ゆうべは屋敷に歌留多《かるた》会の催しがあって、親類の人たちや隣り屋敷の子息や娘や、大供小供をあわせて二十人ほどが寄りあつまって、四ツ(午後十時)を過ぎる頃まで賑やかに騒ぎあかした。その疲れで屋敷じゅうの者もみんな好く寝込んでしまったので高い大屋根の上に這いのぼった者があったか、転げ落ちた者があったか、誰も一向気がつかなかった。現にけさもよそから注意されて初めてそれを発見したくらいであるから、それが宵のことか、夜半《よなか》のことか、暁け方のことか、まるでなんにも見当は付かないと云った。
「この子供の人相はまったく何人《ど
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