た。
「よく判りました。では、なんとか然るべきようの取り計らい方を致しましょう」と、新兵衛は素直に承知した。
軍右衛門を帰したあとで、新兵衛はすぐに神田の半七を呼んで、その一件をあらまし話してきかせた。
「まずそういう訳なんだから、縄張り違いかも知れねえが、一つ踏み込んでやってみてくれ。こういう仕事はお前にかぎる。いや、おだてるんじゃねえが、屋敷の仕事はちっと面倒だから誰でも好いというわけにも行かねえ。寒いところを御苦労だが、なにぶん頼むよ」
「かしこまりました。まあ、なんとか手繰《たぐ》ってみましょう」と、半七は考えながら云った。
「天狗がさらうというのも今どきは流行らねえ」と、新兵衛は笑った。「何かこれには綾があるだろう。洗ってみたら又面白い種があるかも知れねえぜ」
「そうかも知れません。なにしろこれから田町へ行って、御用人に逢って来ましょう」
半七は八丁堀を出て、草履の爪先を浅草にむけた。黒沼の屋敷の通用門をくぐって用人をたずねると、軍右衛門は待ち兼ねていたように彼を自分の長屋へ案内した。
「なにか御迷惑な一件が出来《しゅったい》しましたそうで、お察し申し上げます」と、半七は
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