四
お元の情夫が十右衛門を傷つけて金を取ったのか、河獺が十右衛門を傷つけて、財布を別に取り落したのか、所詮は二つに一つでなければならない。半七は中の郷へ行って、近所の評判を聞いてみると、お元は十右衛門がいうような悪い女ではないらしかった。兄は先年死んだので、自分が下谷の隠居の世話になって老婆を養っているが、こんな身分の若い女には似合わない、至極|実体《じってい》なおとなしい女であるという噂であった。それを聞いて半七も少し迷った。
それにしても一応は本人にぶつかって見ようと思って、かれは瓦町のお元の家へゆくと、小柄な色白の娘が出て来た。それがお元であった。
「下谷の隠居さんはゆうべ来ましたか」と、半七は何気なく訊いた。
「はい」
「よっぽど長くいましたか」
「いいえ、あの門口《かどぐち》で……」と、お元は顔を少し紅くしてあいまいに答えた。
「家《うち》へあがらずに帰りましたかえ。いつもそうですか」
「いいえ」
「ゆうべは政吉さんという人が来ていましたが、あの人はおまえさんの従弟ですか」
お元は躊躇して黙っていた。これは正面から問い落した方がいいと思ったので、半七は正
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