もおかみさんをきびしく叱って、おまえがそこらの川へ突き落してでも来たんだろう、というようなことを云ったらしいんです。おかみさんはひどくそれを口惜《くや》しがって、その晩すぐに家を飛び出して、自分の潔白を見せるために、近所の堀か川へでも身を投げようと思ったんですが、また急に思い直して、そのまま無事に家へ帰って、けさからこのお稲荷さまへ日参を始めたんだそうです。それにそのおかみさんの運の悪いことは、子供を外へ連れて出ようとして、着物を着換えさせてやる時に、よそゆきの帯に迷子札を着けかえるのを忘れてしまって、そのままで出てしまったもんですから、なんにも証拠が無いんです。それを悪く疑えば、わざと迷子札をつけずに置いたとも云われるんです。人の料簡はなかなかうわべから見えませんけれど、あんなに真っ蒼な顔をして、眼を泣き腫らして、どう見ても嘘やいつわりとは思われません、まったくあのお内儀さんの災難に相違なかろうと思うんですが、その子供が無事に出て来ない以上は、なんと疑われても仕方のないわけです」
この長い話を聴かされて、半七と庄太は眼を見合わせた。
「おかみさん。その子供は女の児かえ」と、庄太は待
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