土瓶《どびん》の湯をさしながら相手の顔を覗いた。「その女の人は木場の材木問屋の通い番頭さんのおかみさんだそうで、まだようよう十九で、去年の秋ごろにお嫁に来たんだそうですが、その人は二度添いで、今年|三歳《みっつ》になる先妻の子供があるんです。きのうの夕方、その子供をつれて八郎兵衛新田にいる親類の家へたずねて行って、薄暗くなって帰ってくる途中、どうしたものか其の子供の姿が見えなくなってしまったんです。驚いて探し廻ったんですけれど、どうしても知れない。丸髷にこそ結っていますけれど、まだ十九という若いおかみさんですから、途方にくれて泣きながら自分の家に帰っていくと、御亭主が承知しないんです。そりゃあ勿論、おかみさんにも落度はあります。自分の連れている子供を迷子《まいご》にしたんですから御亭主に対して申し訳ないのはあたり前です。おまけに面倒なことは其の人が二度添いで、迷子にしたのは先妻の子供、自分にとっては継子《ままこ》ですから、なおなお義理が立ちません。義理が立たないばかりでなく、悪く疑えば継母根性でその子供をわざと何処へか捨てて来たかとも思われます。現に御亭主もそう疑っているらしく、なんで
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