半七捕物帳
広重と河獺
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)正本《しょうほん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅草|田町《たまち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]
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     一

 むかしの正本《しょうほん》風に書くと、本舞台一面の平ぶたい、正面に朱塗りの仁王門、門のなかに観音境内の遠見《とおみ》、よきところに銀杏の立木、すべて浅草公園仲見世の体《てい》よろしく、六区の観世物の鳴物にて幕あく。――と、上手《かみて》より一人の老人、惣菜《そうざい》の岡田からでも出て来たらしい様子、下手《しもて》よりも一人の青年出で来たり、門のまえにて双方生き逢い、たがいに挨拶すること宜しくある。
「やあ、これは……。お花見ですかい」
「別になんということもないので……、天気がいいから唯ぶらぶら出て来たんです」
「そうですか。わたくしは橋場《はしば》までお寺まいりに……。毎月一遍ずつは顔を
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