にかけていた四十何両の金を手切金としてお元に渡すことになった。
 お元と政吉は夫婦づれで半七の家へ礼に来た。

「相変らずおしゃべりをしてしまいました。この向島ではまだ、河童や蛇の捕物のお話もありますがね。それは又いつか申し上げましょう。いや、お茶代はわたくしに払わせてください。年寄りに恥をかかしちゃいけない」と、半七老人はふところから鬼更紗《おにさらさ》の紙入れをとり出して、幾らかの茶代を置いた。
 茶屋の娘とわたしとは同時に頭を下げた。
「さあ、まいりましょう。向島もまったく変りましたね」
 老人はあたりを眺めながら起ち上がるを木の頭《かしら》、どこかの工場の汽笛の音にチョンチョン、幕。むかしの芝居にこんな鳴物はない筈である。なるほど向島も変ったに相違ないと思った。



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(一)」光文社文庫、光文社
   1985(昭和60)年11月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:菅野朋子
1999年6月21日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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