れなかった。帯取りの池の秘密はそのおそろしい伝説と同じように、いつまでも疑問のままで残されていた。
二
それから七日ばかりの後の夜であった。手先の松吉が神田三河町の半七の家へ威勢よく駈け込んで来た。
「親分、知れましたよ。あの帯取りの一件が……。近所の評判に嘘はねえ、おみよという女はやっぱり旦那取りをしていたんですよ。相手はなんでも旗本の隠居で、こっちから時々にそっと通っていたんです。おふくろは頻りに隠していたんですけれど、わっしがいろいろ嚇しつけて、とうとうそれだけの泥を吐かせて来たんですが、どうでしょう、それが何かの手がかりになりますまいか」
「むむ、それだけでも判ると、だいぶ見当がつく」と、半七はうなずいた。「おふくろを嚇かして来たんじゃあ、あんまり手柄にもならねえが……。ひょろ松、まあ手前にしちゃあ上出来のほうだ。おとなしそうに見えていても、旦那取りをするような女じゃあ、ほかにも又いろいろの紛糾《いざこざ》があるだろう。そこで、お前はこれからどうする」
「さあ、それが判らねえから相談に来たんです。まさかその旗本の隠居が殺したんじゃありますめえ。親分はどう思います
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