方がねえ」と、半七は諭《さと》すように云った。「この芝居ももうこれで大詰めだろう。おい、千次郎。正直に何もかも云ってしまえ。自身番まで引き摺って行って、わざわざ引っぱたくのも忌《いや》だから、ここでみんな聞いてやろうぜ」
「恐れ入れました」と、千次郎はもう生きているような顔色はなかった。
「お前はあのおみよという女と心中したんだろう。女はおめえが絞めたのか」
「親分、それは違います。おみよはわたくしが殺したのじゃございません」
「嘘をつけ。女をだますのとは訳が違うぞ。天下の御用聞きの前で嘘八百をならべ立てると、飛んでもねえことになるぞ。人を見て物をいえ。現におみよの書置があるじゃあねえか」
「おみよの書置には心中とは書いてございません。おみよは自分ひとりで死んだのでございます」と、千次郎はふるえながら訴えた。
半七も少しゆき詰まった。心中というのは自分だけの鑑定で、成程おみよの書置に心中ということは書いてないらしかった。併しおみよとこの千次郎とがどうしても無関係とは思われなかった。
「それじゃあ、てめえはどうしておみよの書置の文句を知っている。おみよの死んだそばにいねえで、それが判る
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