いって来た。
「これが表沙汰になりましては、御屋敷の名前にもかかわります。幸いに事を仕損じて誰に迷惑がかかったというでもなし、この女の罪はわたくしに免じてどうか御勘弁を願わしゅう存じます」
女がしきりに頼むので、半七は無下《むげ》に跳ねけ付けることも出来なくなった。彼は女の苦しそうな事情を察して、とうとうお俊を赦してやることになった。
「親分さん。どうも有難うございました。いずれお礼にうかがいます」
「礼なんぞに来なくても好いから、この後あんまり手数を掛けねえようにしてくれ」
「はい、はい」
お俊は器量を悪くしてすごすご帰って行った。これで偽物の正体はあらわれたが、ほんものの正体はやはり判らなかった。併しもうこういう破目《はめ》になっては、なまじいに包み隠しても仕方があるまい、いよいよ相手の疑いを増すばかりで、まとまるべき相談も却って纏《まと》まらないかも知れないと覚ったらしく、女はお亀と半七にむかって自分の秘密を正直に打ち明けた。
彼女はお俊のような偽物でなく、たしかに或る大名の江戸屋敷につとめている奥女中であった。主人の殿様は江戸から北の方にある領地へ帰っているが、奥方は無論
前へ
次へ
全36ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング