とも判った。彼女は安蔵を供の武士に仕立てて、自分は奥女中に化けてお蝶を受け取りに来たのであった。彼女がお蝶の前にならべた二百両は無論に銅脈の偽物であった。
「なにしろ急仕事の偽迎いだもんですからね。ぐすぐずしていると、ほんものの方が乗り込んで来るかも知れないというので、無暗に支度を急いだもんですから、乗物までは手がまわらないで、飛んだ唯今のお笑い草となってしまいましたよ」と、お俊はさすがに悪党だけに何もかも思い切りよくしゃべってしまった。
「それでみんな判った」と、半七はうなずいた。「お前もこんなことで食らい込んじゃあ嬉しくあるめえが、半七が見た以上は、まさかに御機嫌よろしゅう、はい左様ならと云うわけには行かねえ。気の毒だが一緒にそこまで来て貰おうぜ」
「どうも仕方がありませんよ。まあ、いたわっておくんなさいまし」
 併しこんな姿で引っ張って行かれるのは、乞食芝居のようで困るから、どうぞ家から浴衣《ゆかた》を取り寄せてくれとお俊は云った。半七も承知したが、ここではどうにもならないから、ともかくも番屋まで来いと云って、お俊を引っ立てて出ようとするところへ、さっきから入口に立っていた女がは
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