上について昨日《さくじつ》もほかの御女中がまいって詳しいお話をいたしました筈。親御も御得心ならば、今夜からすぐにお越し下さるように、わたくしがお迎いにまいりました」
女は切り口上で云った。お亀はすこしその威に打たれたらしく、唯もじもじしていて、はっきりした挨拶もできなかった。
「今さら御不承知と申されては、わたくしどもの役目が立ちませぬ。まげて御承知くださるように重ねておねがい申します」
「娘はゆうべ帰りまして、それからなんだか気分が悪いとか申して、きょうも一日|臥《ふせ》って居りますので、まだ碌々に相談いたす暇もございませんで……」
お亀は一寸|遁《のが》れの口上で、なんとか此の場を切り抜けるつもりらしかったが、相手はなかなか承知しなかった。女は嵩《かさ》にかかって又云った。
「いえ、それはなりませぬ。篤《とく》と御相談くださるように、昨夜わざわざ戻してあげましたのに、いま以て何の御相談もないというは、こちらの志を無にしたような致され方、それではわたくしはおめおめ引き取るわけにはまいりませぬ。娘御をここへ呼び出して、わたくしと三《み》つ鼎《がなえ》であらためて御相談いたしましょう
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