れにしても、高島がお吉に預けて置いた疑問のふた品はなんであろう。
「あれは高島が家重代の宝物でござる」と、梶井は説明した。
豊臣秀吉が朝鮮征伐のみぎりに、高島が十代前の祖先の弥五右衛門は藩主にしたがって渡海した。その時に分捕りして持ち帰ったのが彼《か》の二品で、干枯《ひから》びた人間の首と得体の知れない動物の頭と――それは朝鮮の怪しい巫女《みこ》が、まじないや祈祷の種に使うもので、殆ど神のようにうやうやしく祀られていたものであった。余り珍らしいので持ち帰ったが、誰にもその正体は判らなかった。ともかくも一種の宝物として高島の家に伝えられていて、藩中でも誰知らぬ者もない。梶井も一度見せられたことがある。今度屋敷を立退くに就いても、まずこの奇怪な宝物をお吉にあずけて置いたものと察せられた。
泥鮫の方は梶井も知らないと云った。しかし高島の祖父という人は久しく長崎に詰めていたことがあるから、おそらくその当時に異国人からでも手に入れたものであろうとのことであった。泥鮫は金になるから売ってしまったが、他の二品は買い手もない。殊に家に伝わる宝物であるから、女と一緒にかかえて行ったものであろう。人間
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