毎日遊び歩いているのであるから、彼等もなるたけ銭《ぜに》の要らない場所を選ばなければならなかった。彼等は結局この湯屋の二階を根城《ねじろ》として、申し訳ばかりに時々そこらを出て歩いていた。そのうちに一方の高島の方は二階番のお吉と仲好くなり過ぎてしまった。仇討なんぞはあぶないからお止《よ》しなさいと、女がしきりに心配して制《と》めるようになった。
 こんなことをしていた処で、仇のありかはとても知れそうもない。万一知れたところで、尋常に助太刀の務めを果たすほどのしっかりした覚悟をもっていない彼等は、時の過ぎゆくに従って自分たちの行く末を考えなければならなかった。百日の期限が過ぎて仇のゆくえが知れない暁には、自分たちの不首尾は眼に見えている。一体江戸にいるか居ないか確かに判りもしないものを、日限を切って探し出せというのが無理であるが、それも屋敷の命令であるから仕方がない。まさかに長《なが》の暇《いとま》にもなるまいとはいうものの、身持放埓とかいうような名義のもとに、国許へ追い返されるぐらいのことは覚悟しなければならない。毎日うかうかと遊んでいる間にも、この不安が重い石のように彼等の胸をおしつ
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