親類の身になったら、逆《さか》磔刑にしても飽き足らねえと思召すでもございましょうが、どんなむごい仕置きをしたからと云って、死んだ若旦那が返るという訳でもございませんから、これも何かの因縁と思召して、和吉の後始末はまあ好いようにしてやって下さいまし」
「重ね重ねありがとうございます」
「だが、旦那、このことは無論内分にいたしますが、江戸中にたった一人、正直に云って聞かせなけりゃあならない者がございますから、それだけは最初からお断わり申して置きます」と、半七は男らしく云った。
「江戸じゅうに一人」と、十右衛門は不思議そうな顔をした。
「この席じゃあちっと申しにくいことですが、下谷にいる文字清という常磐津の師匠です」
 和泉屋の夫婦は顔をみあわせた。
「あの女も今度のことについては、いろいろ勘違いをしているようですから、得心《とくしん》の行くように私からよく云って聞かせなけりゃあなりません」と、半七は云った。「それから余計なお世話ですが、若旦那のお達者でいるあいだは又いろいろ御都合もございましたろうが、もう斯《こ》うなりました上は、あの女にもお出入りを許してやって、ちっとは御面倒を見てやって
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