様子が急に変って、もう一人の若い男と一緒に、わたくしを散々ひどい目に逢わせまして、それから又遠いところへ送りました。わたくしはもう半分は死んだ者のように茫《ぼう》となってしまいまして、なにをどうしようという知恵も分別《ふんべつ》も出ませんでした」と、お菊は江戸へ帰ってから係り役人の取り調べに答えた。
番頭の清次郎は単に「叱り置く」というだけで赦《ゆる》された。
小柳は自滅して仕置を免かれたが、その死に首はやはり小塚ッ原に梟《か》けられた。金次は同罪ともなるべきものを格別の御慈悲を以て遠島申し付けられて、この一件は落着《らくちゃく》した。
「これがまあ私の売出す始めでした」と、半七老人は云った。「それから三、四年も経つうちに、親分の吉五郎は霍乱《かくらん》で死にました。その死にぎわに娘のお仙と跡式一切をわたくしに譲って、どうか跡《あと》を立ててくれろという遺言があったもんですから、子分たちもとうとうわたくしを担《かつ》ぎ上げて二代目の親分ということにしてしまいました。わたくしが一人前の岡っ引になったのはこの時からです。
その時にどうして小柳に目串《めぐし》を差したかと云うんですか
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