竹垣が結いまわしてあった。
Kのおじさんは役所から帰って、もう夕飯をしまって、湯から帰っていた。おじさんは私を相手にして、ランプの前で一時間ほども他愛もない話などをしていた。時々に雨戸をなでる庭の八つ手の大きい葉に、雨音がぴしゃぴしゃときこえるのも、外の暗さを想わせるような夜であった。柱にかけてある時計が七時を打つと、おじさんはふと話をやめて外の雨に耳を傾けた。
「だいぶ降って来たな」
「おばさんは帰りに困るでしょう」
「なに、人力車《くるま》を迎いにやったからいい」
こう云っておじさんは又黙って茶を喫《の》んでいたが、やがて少しまじめになった。
「おい、いつかお前が訊いたおふみの話を今夜聞かしてやろうか。化け物の話はこういう晩がいいもんだ。しかしお前は臆病だからなあ」
実際わたしは臆病であった。それでも怖《こわ》い物見たさ聞きたさに、いつも小さいからだを固くして一生懸命に怪談を聞くのが好きであった。殊に年来の疑問になっているおふみの一件を測《はか》らずもおじさんの方から切り出したので、わたしは思わず眼をかがやかした。明るいランプの下ならどんな怪談でも怖くないというふうに、わざと
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