き》をついておいでになりましたが、やがて低い声で『ああ、御運の悪い方だ』と独り言のように仰しゃいました。その日はそれでお別れ申しましたが、二月に又お参りをいたしますと、和尚さまはわたくしの顔を見て、又同じようなことを云って溜息をついておいでになりますので、わたくしも何かと不安心になってまいりまして、『それはどうした訳でございましょう』と、こわごわ伺いますと、和尚さまは気の毒そうに、『どうもあなたは御相《ごそう》がよろしくない。御亭主を持っていられると、今にお命にもかかわるような禍《わざわ》いが来る。出来ることならば独り身におなり遊ばすとよいが、さもないとあなたばかりではない、お嬢さまにも、おそろしい災難が落ちて来るかも知れない』と諭《さと》すように仰しゃいました。こう聞いて私もぞっ[#「ぞっ」に傍点]としました。自分はともあれ、せめて娘だけでも災難をのがれる工夫《くふう》はございますまいかと押し返して伺いますと、和尚さまは『お気の毒であるが、母子《おやこ》は一体、あなたが禍いを避ける工夫をしない限りは、お嬢さまも所詮《しょせん》のがれることはできない』と……。そう云われた時の……わたく
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