るのが、彼の細長い顔の著しい特徴であった。かれは神田の半七という岡っ引で、その妹は神田の明神下で常磐津の師匠をしている。Kのおじさんは時々その師匠のところへ遊びにゆくので、兄の半七とも自然懇意になった。
 半七は岡っ引の仲間でも幅利きであった。しかし、こんな稼業の者にはめずらしい正直な淡泊《あっさり》した江戸っ子風の男で、御用をかさに着て弱い者をいじめるなどという悪い噂は、かつて聞えたことがなかった。彼は誰に対しても親切な男であった。
「相変らず忙がしいかね」と、おじさんは訊いた。
「へえ。きょうも御用でここへちょっとまいりました」
 それから二つ三つ世間話をしている間に、おじさんは不図《ふと》かんがえた。この半七ならば秘密を明かしても差支えはあるまい、いっそ何もかも打明けて彼の知恵を借りることにしようかと思った。
「御用で忙がしいところを気の毒だが、少しお前に聞いて貰いたいことがあるんだが……」と、おじさんは左右を見まわすと、半七は快くうなずいた。
「なんだか存じませんが、ともかくも伺いましょう。おい、おかみさん。二階をちょいと借りるぜ。好いかい」
 彼は先に立って狭い二階にあがった
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