おじさんとは平生《へいぜい》から特に懇意にしているので、小幡も隠さず秘密を洩らした。そうして、なんとかしてこの幽霊の真相を探りきわめる工夫はあるまいかと相談した。旗本に限らず、御家人に限らず、江戸の侍の次三男などというものは、概して無役《むやく》の閑人《ひまじん》であった。長男は無論その家を嗣《つ》ぐべく生まれたのであるが、次男三男に生まれたものは、自分に特殊の才能があって新規御召出しの特典をうけるか、あるいは他家の養子にゆくか、この二つの場合を除いては、殆《ほとん》ど世に出る見込みもないのであった。かれらの多くは兄の屋敷に厄介になって、大小を横たえた一人前の男がなんの仕事もなしに日を暮らしているという、一面から見れば頗《すこぶ》る呑気《のんき》らしい、また一面から見れば、頗る悲惨な境遇に置かれていた。
こういう余儀ない事情はかれらを駆って放縦《ほうじゅう》懶惰《らんだ》の高等遊民たらしめるよりほかはなかった。かれらの多くは道楽者であった。退屈しのぎに何か事あれかしと待ち構えている徒《やから》であった。Kのおじさんも不運に生まれた一人で、こんな相談相手に選ばれるには屈竟《くっきょ
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