》が判つて、その法事供養でもして遣《や》れば、それでよからうと思ふんだが……。」
「まあ、さうですねえ。」と、半七は首をかしげてしばらく考へてゐた。「ねえ、旦那。幽靈はほんたうに出るんでせうか。」
「さあ。」と、をぢさんも返事に困つた。「まあ、出ると云ふんだが……。私も見た譯《わけ》ぢやない。」
 半七は又默つて煙草を喫《す》つてゐた。
「その幽靈といふのは武家の召使らしい風をして、水だらけになつてゐるんですね。早く云へば皿屋敷のお菊を何うかしたやうな形なんですね。」
「まあ、さうらしい。」
「あの御屋敷では草雙紙のやうなものを御覽になりますか。」と、半七はだしぬけに思ひも付かないことを訊いた。
「主人は嫌ひだが、奥では讀むらしい。直きこの近所の田島屋といふ貸本屋が出入りのやうだ。」
「あの御屋敷のお寺は……。」
「下谷の淨圓寺だ。」
「淨圓寺……。へえ、さうですか。」と、半七はにつこり笑つた。
「なにか心當りがあるかね。」
「小幡の奥様はお美しいんですか。」
「まあ、美《い》い女の方だらう。年は二十一だ。」
「そこで旦那。いかゞでせう。」と、半七は笑ひながら云つた。「御屋敷方の内輪《
前へ 次へ
全36ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング