白髪鬼
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)素人家《しろうとや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)七|間《ま》ほど
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一
S弁護士は語る。
私はあまり怪談などというものに興味をもたない人間で、他人からそんな話を聴こうともせず、自分から好んで話そうともしないのですが、若いときにたった一度、こんな事件に出逢ったことがあって、その謎だけはまだ本当に解けないのです。
今から十五年ほど前に、わたしは麹町の半蔵門に近いところに下宿生活をして、神田のある法律学校に通っていたことがあります。下宿屋といっても、素人家《しろうとや》に手入れをして七|間《ま》ほどの客間を造ったのですから、満員となったところで七人以上の客を収容することは出来ない。いわば一種の素人下宿のような家で、主婦は五十をすこし越えたらしい上品な人でした。ほかに廿八九の娘と女中ひとり、この三人で客の世話をしているのですが、だんだん聞いてみると、ここの家《うち》には相当の財産があって、長男は京都の大学にはいっている。その長男が卒業して帰って来るまで、ただ遊ん
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