書を飜刻してくれた人たちは、その目的が那辺にあろうとも、我々に取っては皆忘れ難い恩人であった。その人々も今は大かたこの世にいないであろう。その書物も次第に堙滅《いんめつ》して、今は古本屋の店頭にもその形をとどめなくなった。わたしもその飜刻書類を随分蒐集していたが、それもみな震災の犠牲になってしまったのは残り惜しい。
わたしは比較的に好運の人間で、これまでにあまりひどい目に逢ったこともなかったが、震災のために、多年の日記、雑記帳、原稿のたぐいから蔵書一切を焼き失ったのは、一生一度の償い難き災禍であった。この恨は綿々として尽きない。
底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「猫やなぎ」岡倉書房
1934(昭和9)年4月初版発行
初出:「書物展望」
1933(昭和8)年3月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
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