る長い一幕の終るまで身動きもしなかった。
その島原の名はもう東京の人から忘れられてしまった。周囲の世界もまったく変化した。妹脊山の舞台に立ったかの四人の歌舞伎俳優のうちで、三人はもう二十年も前に死んだ。わずかに生き残るものは福助の歌右衛門だけである。新富座も今度の震災で灰となってしまった。一切の過去は消滅した。
しかも、その当時の少年は依然として昔の夢をくり返して、ひとり楽《たのし》み、ひとり悲《かなし》んでいる。かれはおそらくその一生を終るまで、その夢から醒める時はないのであろう。
底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「十番随筆」新作社
1924(大正13)年4月初版発行
初出:「随筆」
1924(大正13)年1月号
※原題は「歌舞伎の夢」。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
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