う》さまのそばでございます。父は五年以前に歿しまして、母とわたくしは横町にしもた[#「しもた」に傍点]家《や》ぐらしを致していました。別に財産というほどの物もないのでございますが、髪結床《かみゆいどこ》の株を持っていまして、それから毎月三|分《ぶ》ほど揚がるとかいうことで、そのほかに叔父の方から母の小遣いとして、一分《いちぶ》ずつ仕送ってくれますので、あわせて毎月|小《こ》一両、それだけあればその時代には女ふたりの暮らしに困るようなことはなかったのでございます。兄は十九で京橋の布袋屋《ほていや》という大きい呉服屋さんへ奉公に出ていまして、その年季のあけるのを母は楽しみにしていたのでございます。
 叔父は父の弟で、わたくしの母よりも五つの年上で、その頃四十一の前厄《まえやく》だと聞いていました。名は源造といいまして、やはり四谷通りの伝馬町《てんまちょう》に会津屋《あいづや》という刀屋の店を出していましたので、わたくしの家とは近所でもあり、かたがたしてわたくしの家の後見というようなことになっていました。叔父の女房、すなわち私の叔母にあたります人は、おまんといいまして、その夫婦の間にお定、お
前へ 次へ
全48ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング