もての、左の眼に白い曇りのあるような、しかし大体に眼鼻立ちの整った、どちらかといえば美しい方の容貌《きりょう》の持主で、紡績|飛白《がすり》のような綿入れを着て紅いメレンスの帯を締めていました。――それが何だかわたくしの顔をじっと見ているらしいのです。その娘がわたくしに声をかけたらしくも思われるのです。
「継子さんが亡くなったのですか。」
ほとんど無意識に、わたくしはその娘に訊きかえしますと、娘は黙ってうなずいたように見えました。そのうちにあとからくる人に押されて、わたくしは改札口を通り抜けてしまいましたが、あまり不思議なので、もう一度その娘に訊き返そうと思って見返りましたが、どこへ行ったかその姿が見えません。わたくしと列んでいたのですから、相前後して改札口を出たはずですが、そこらにその姿が見えないのでございます。引っ返して構内を覗きましたが、やはりそれらしい人は見付からないのでわたくしは夢のような心持がして、しきりにそこらを見廻しましたが、あとにも先にもその娘は見えませんでした。どうしたのでしょう、どこへ消えてしまったのでしょう。わたくしは立停まってぼんやりと考えていました。
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