一に気にかかるのは継子さんのことです。今別れて来たばかりの継子さんが死ぬなどというはずがありません。けれども、わたくしの耳には一度ならず、二度までも確かにそう聞えたのです。怪しい娘がわたくしに教えてくれたように思われるのです。気の迷いかも知れないと打消しながらもわたくしは妙にそれが気にかかってならないので、いつまでも夢のような心持でそこに突っ立っていました。これから湯河原へ引っ返して見ようかとも思いました。それもなんだか馬鹿らしいように思いました。このまま真っすぐに東京へ帰ろうか、それとも湯河原へ引っ返そうかと、わたくしはいろいろに考えていましたが、どう考えてもそんなことの有りようはないように思われました。お天気のいい真っ昼間、しかも停車場の混雑のなかで、怪しい娘が継子さんの死を知らせてくれる――そんな事のあるべきはずがないと思われましたので、わたくしは思い切って東京へ帰ることに決めました。
そのうちに東京行きの列車が着きましたので、ほかの人たちはみんな乗込みました。わたくしも乗ろうとして又にわかに躊躇しました。まっすぐに東京へ帰ると決心していながら、いざ乗込むという場合になると、不
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