子さんは食卓《ちゃぶだい》の上にうつ伏してゐるので、初めはなにか考へてゐるのかと思つたのですが、どうも様子が可怪《おかし》いので、声をかけても返事がない。揺つてみても正体がないので、それから大騒ぎになつたのですが、継子さんはもうそれぎり蘇生《いきかえ》らないのです。お医師《いしゃ》の診断によると、心臓|麻痺《まひ》ださうで……。尤《もっと》も継子さんは前の年にも脚気《かっけ》になつた事がありますから、矢はりそれが原因になつたのかも知れません。なにしろ、わたくしも呆気《あっけ》に取られてしまひました。いえ、それよりも私《わたくし》をおどろかしたのは、国府津の停車場で出逢《であ》つた娘のことで、あれは一体何者でせう。不二雄さんは不意の出来事に顛倒《てんとう》してしまつて、なか/\私《わたくし》のあとを追ひかけさせる余裕はなかつたのです。宿からも使《つかい》などを出したことはないと云ひます。してみると、その娘の正体が判りません。どうしてわたくしに声をかけたのでせう。娘が教へてくれなかつたら、わたくしは何にも知らずに東京へ帰つてしまつたでせう。ねえ、さうでせう。」
「さうです、さうです。」と、
前へ 次へ
全15ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング