るか、兄の市之助に子細を打明けて、弟の仇と名乗って討たるるか。二つに一つのほかはあるまい」
 彼も大きな溜め息をついて、頽《くず》れるように河原に坐ってしまった。
 お染は途方にくれた。それでも一生懸命の知恵を絞り出して、男にここを逃げろと言った。この場の有様を見知っている者は自分ひとりであるから、ほかの者の来ないうちに早くここを立ち退いてしまえと勧めた。
「何を馬鹿な」と、半九郎は嘲《あざけ》るように答えた。「菊地半九郎はそれほど卑怯な男でない。さしたる意趣《いしゅ》も遺恨《いこん》もないに、朋輩ひとりを殺したからは、いさぎよく罪を引受けるが武士の道だ。ともかくも市之助に逢って分別を決める」
 彼は河原づたいに花菱へ引っ返した。お染も痛む足を引摺りながらその後についてゆくと、市之助はもう寝床へはいっていた。
「市之助、起きてくれ」
 屏風の外からそっと声をかけると、市之助は眠そうな声で答えた。
「誰だ。はいれ」
「女はいぬか」
 こう言いながら屏風をあけた半九郎の顔は、水のように蒼かった。鬢《びん》も衣紋《えもん》も乱れていた。うす暗い灯の影でそれをじっ[#「じっ」に傍点]と見た市之
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