向いていろいろのことを考えつめていた。
ゆうべの客に今夜も逢えたというのが彼女は第一に嬉しかった。それと同時に、かの客がどうして今夜もここへ来たか、お染はその人の心を深く考えて見たかったのである。勿論、それには友達の附き合いという意味も含まれているであろうと想像した。酒さえ快《こころよ》く飲んでいれば、女なぞはどうでもいいと思っているのかも知れないと想像した。しかし昨夜の様子から推量《おしはか》ると、友達の附き合いとして酒を飲むことのほかに、何かの意味があるらしくも思われた。頼りない自分を憐れんで、今夜も呼んでくれたのではあるまいか――自分勝手ではあるが、お染はどうもそうであるらしいように解釈した。そうして、どうかそうであって呉《く》れればいいと胸のうちでひそかに祈っていた。
今夜は宵から薄く陰《くも》って、弱い稲妻が時どきに暗い空から走って来た。それが秋の夜らしい気分を誘って、酒を飲まないお染はなんだか肌寒いようにも思われた。
お花は酔って唄った。
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※[#歌記号、1−3−28]立つる錦木《にしきぎ》甲斐なく朽ちて、逢わで年経《としふ》る身ぞ辛き
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