鳥辺山心中
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)溝川《どぶがわ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)六条|柳町《やなぎちょう》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹+夕」、第3水準1−14−76]
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一
裏の溝川《どぶがわ》で秋の蛙《かわず》が枯れがれに鳴いているのを、お染《そめ》は寂しい心持ちで聴いていた。ことし十七の彼女《かれ》は今夜が勤めの第一夜であった。店出しの宵――それは誰でも悲しい経験に相違なかったが、自体が内気な生まれつきで、世間というものをちっとも知らないお染は、取り分けて今夜が悲しかった。悲しいというよりも怖ろしかった。彼女はもう座敷にいたたまれなくなって、華やかな灯《ひ》の影から廊下へ逃《のが》れて、裏手の低い欄干に身を投げかけながら、鳴き弱った蛙の声を半分は夢のように聴いていたのであった。
もう一つ、彼女の弱い魂をおびやかしたのは、今夜の客が江戸の侍《さむらい》ということで
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