、戸をあけて月を眺めたいと思ったが、おどされているので、再三躊躇した。しかも武勇をたのんで、思い切って出た。
行くこと数十歩ならず、たちまち数十の猴《さる》の群れが悲鳴をあげながら逃げて来て、大樹をえらんで攀《よ》じのぼったので、茅もほかの樹にのぼって遠くうかがっていると、一匹の蛇が林の中から出て来た。蛇は太い柱のごとく、両眼は灼々《しゃくしゃく》とかがやいている。からだの甲《こう》は魚鱗の如くにして硬く、腰から下に九つの尾が生えていて、それを曳いてゆく音は鉄の甲《よろい》のように響いた。
蛇は大樹の下に来ると、九つの尾を逆《さか》しまにしてくるくると舞った。尾の端《はし》には小さい穴がある。その穴から涎《よだれ》がはじくようにほとばしって、樹の上の猴を撃った。撃たれた猴は叫んで地に落ちると、その腹は裂けていた。蛇はしずかにその三匹を食らって、尾を曳いて去った。
茅は懼《おそ》れて帰った。その以来、彼も暗くなると表へ出なかった。
底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使
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