雇い入れた奉公人であった。雲南地方の山地には苗《びょう》または※[#「けものへん+搖のつくり」、296−4]《よう》という一種の蛮族が棲んでいるが、老女もその一人で、老年でありながら能く働き、且《かつ》は正直|律義《りちぎ》の人間であるので、李公が都へ帰るときに家族と共に伴い来たったものである。それが今やこの怪異をみせたので、李氏の一家は又おどろかされた。老女は矢傷に苦しみながらも、まだ生きていた。
だんだん考えてみると、彼女に怪しい点がないでもない。よほどの老年とみえながら、からだは甚だすこやかである。蛮地の生まれとはいいながら、自分の歳を知らないという。殊《こと》に今夜のような事件が出来《しゅったい》したので、主人も今更のようにそれを怪しんだ。あるいは妖怪が姿を変じているのではないかと疑って、厳重にかの女を拷問《ごうもん》すると、老女は苦しい息のもとで答えた。
「わたくしは一種の咒文《じゅもん》を知っていまして、それを念じると能く異鳥に化けることが出来ますので、夜のふけるのを待って飛び出して、すでに数百人の子供の脳を食いました」
李公は大いに怒って、すぐにかの女をくくりあげ、薪
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